本体は3割減ったのに、こっちは倍になった
任天堂が8月6日に公開した2027年3月期・第1四半期(2026年4〜6月)の決算説明資料に、「IP関連収入等」が348億円という数字が載っている。前年同期は167億円だったので、107.4%増、つまり1年でちょうど倍になった計算だ。
この「IP関連収入等」が何かというと、資料の注釈によれば、映像コンテンツ収入、スマートデバイス向け課金収入、ロイヤリティ収入、オフィシャルストアでのグッズ販売などの売上高。要するにハードもソフトも売っていない、キャラクターそのものが稼いだお金である。
同じ四半期、売上の大半を占める「ゲーム専用機」は4,830億円で、前年同期の5,555億円から13.1%減っている。ただしこの区分は、注記を読むと本体とソフトの両方をまとめた数字だ。中身を数量で見ると景色が変わる。
減っているのは本体のほうで、Nintendo Switch 2が582万台から382万台へ34.4%減、Nintendo Switchも98万台から66万台へ31.8%減。一方でソフトは増えている。Switch 2用が867万本から946万本へ、Switch用にいたっては2,440万本から3,381万本へ38.6%も伸びた。任天堂自身も「ソフトウェア販売本数の増加や円安の進行があったものの、主にハードウェアの販売台数が減少したことにより」減収になったと説明している。
つまりこの四半期の任天堂は、本体の販売台数だけが落ち込み、ソフトもキャラクターも伸びていた。そして売上の区分でいちばん派手に動いたのが、この348億円だった。
倍増の中身は、映画1本だった
資料は増加の理由を「『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』に関連する映像コンテンツ収入が増加したことなど」と説明している。この映画は2026年4月1日から世界公開され、全世界の累計興行収入は10億ドルを突破。ゲーム原作の映画として、前作『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』に次ぐ歴代2位の記録だという。
地域別の内訳を見ると、この伸びがどこから来たかがもう少し見える。IP関連収入等の米大陸分は、前年同期の55億3,800万円から205億4,700万円へ。国内が99億円から123億円と穏やかに増えているのに対し、米大陸だけが桁違いに動いている。
ゲーム機を持っていない人が、任天堂に触れている
この数字がプレイヤーにとって何を意味するか。任天堂自身が資料で書いているのは、映像ビジネスの意義は「ゲーム専用機ビジネスの枠を超えて、世界中の方々に任天堂のキャラクターを知っていただくこと」にある、という話だ。特に「ゲーム専用機が十分に普及していない地域」で、任天堂のコンテンツに初めて触れるきっかけになっていると説明している。
つまり348億円という数字は、Switchを持っていない人たちが払ったお金でもある。同じ資料には、年間に一度以上ソフトを起動したユーザー数が前年に続いて1億を超える水準を維持していることも載っている。1億人のプレイヤーがいる一方で、その外側に映画館でマリオに出会った人がいる。
編集部の見立て:この348億円は、まだ「マリオ1本」の数字だ
ここからは資料に書かれていない、編集部の見方だ。
今回の倍増を作ったのは、資料の説明を読むかぎりほぼ『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』1本である。つまり任天堂は、手持ちのIPを1つ動かしただけで、四半期の収入を167億円から348億円に増やしたことになる。
そして任天堂の棚には、まだ動かしていないものが並んでいる。ドンキーコング、カービィ、メトロイド、どうぶつの森、スプラトゥーン、ピクミン、ファイアーエムブレム——どれも数十年ぶんの蓄積があり、世界中に名前が知られている。2027年の『ゼルダの伝説』実写映画は、その2枚目のカードにすぎない。
ここで浮かぶ問いは単純だ。マリオ1本で348億円なら、任天堂が本気でIPを回し始めたら、この数字はどこまで行くのか。
任天堂自身は資料で、映像ビジネスの狙いを「ゲーム専用機ビジネスの枠を超えて、世界中の方々に任天堂のキャラクターを知っていただくこと」と書いている。これは収入の話ではなく、入口を増やす話だ。映画で知った人がゲームを買い、ゲームで好きになった人が次の映画を観る。その循環が回り始めたとき、任天堂はゲーム機を売る会社ではなくなる。
もちろん、映画は当たり外れの大きい商売だし、次が同じように10億ドルを稼ぐ保証はどこにもない。それでも、本体が売れた売れないとは別の時計でこの数字が動いているという事実は、決算資料の中でここだけが持っている手触りだった。
出典: 任天堂が公開した決算説明資料(IRページ)。数値・スライド画像は同資料に基づく。
本記事は任天堂が公開した決算説明資料を基に、公開情報を要約・整理したものです。特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。文責:山口修平(Quest Board編集責任者)。




