「アメコミのゲーム化」という言葉には、長いこと諦めのような響きがあった。映画やテレビの公開に合わせて出る、原作の絵柄をなぞっただけの企画物。2009年8月25日に北米で発売された『バットマン アーカム・アサイラム』は、その前提そのものをひっくり返した作品だった。

どういうゲームなのか
三人称視点のアクションアドベンチャーで、プレイヤーはバットマンを操作する。舞台はゴッサム・シティ本土と橋でつながった島に建つ精神病院「アーカム・アサイラム」。宿敵ジョーカーがこの施設を乗っ取り、収監されていた敵たちごとバットマンを閉じ込め、街には爆弾を仕掛けたと脅す——これが本筋だ。
戦闘は、大勢の敵を相手にダメージを避けながら攻撃をつないでいく形式。加えて、姿を隠して敵を一人ずつ無力化するステルス、現場を調べる探偵としての捜査、探索と戦闘の両方に使うガジェットがある。施設内は自由に歩き回れ、本編を進めるか新しい装備を手に入れることで行ける場所が増えていく。本筋を外れて収集要素や追加コンテンツを掘る遊び方も用意されている。

誰が作ったのか
エイドスがバットマンのゲーム化権を得たのは2007年春。同社は当時ほとんど無名だった英国のロックステディ・スタジオが作ったプロトタイプを見て、この会社に声をかけた。版元が実績ではなく試作品で開発元を選んだわけだ。5月には企画が動き出し、9月から本格的な制作に入る。
脚本には『バットマン: アニメイテッド・シリーズ』『ディテクティブ・コミックス』のポール・ディニが起用された。DCコミックスから話が来た時、ディニは「バットマンのゲームは映画やテレビの翻案ばかりで、オリジナルの発想から作られたものが少ない」と感じ、興味を持ったという。ゲームと物語は同時に作られ、仕組み上できないことに合わせて話のほうを組み立て直した。目指したのは、バットマンに興味のない人でも8〜10時間を費やす気になる面白さだった。
何が残ったのか
評価は圧倒的だった。メタクリティックはXbox 360版92点、PS3版91点、Windows版91点。平均91.67点で「史上最も批評家に称賛されたスーパーヒーローゲーム」としてギネス世界記録に認定され、記録は続編『アーカム・シティ』が破るまで保持された。IGNのグレッグ・ミラーは「史上最高のアメコミゲーム」、Eurogamerのダン・ホワイトヘッドは「文句なしに最高のスーパーヒーローゲーム」と評し、Edge誌は「現代のスーパーヒーローゲームとして群を抜いている」と書いた。ホワイトヘッドは、象徴的なヒーローが登場しなかったとしても、練られた物語と見事な声の演技を備えた完成度の高い作品だと付け加えている。
批評家たちはこの作品を、独自の冒険と世界への没入という点で『BioShock』に、冒険の作法で『ゼルダの伝説』に、マップの構造で『メトロイド』になぞらえた。PSM3のアンディ・ケリーは「スーパーヒーローの全能感を与えつつ、歯応えが残る程度の弱さも残した。バランスと設計の見事な達成」と書いている。
この成功が『アーカム』シリーズを生んだ。2011年10月に直接の続編『アーカム・シティ』、2013年10月に前日譚『アーカム・オリジンズ』、2015年6月に完結編『アーカム・ナイト』。影響は他媒体にも及び、コミック作家のグラント・モリソンは『バットマン・インコーポレイテッド』の着想源としてこの作品を挙げ、「あのゲームを遊んだ時、人生で初めてバットマンであることの感覚が分かった」と語っている。
いま遊べるのか
当時の対応機種はPlayStation 3、PlayStation 4。PC版は当初Games for Windows Liveを採用していたが、2013年10月にワーナーがこの機能の削除方針を発表し、Steamへの移行措置が取られた。日本ではPS3版・Xbox 360版が2010年1月14日にスクウェア・エニックスから発売されている。
現在はSteamのWindows版が**¥1,980**。レビュー87,088件で**好評96%**という数字が付いている。
ストアページ: https://store.steampowered.com/app/35140/
当時のトレーラーはSteamストアで視聴できる
当時の評価・開発の経緯は、Wikipedia(日本語版・英語版/CC BY-SA)を参照した。画面写真はSteamストアの公開素材。







