2005年10月27日、ヴァルヴ・コーポレーションは『Half-Life 2: Lost Coast』を公開した。2004年のFPS『Half-Life 2』の追加レベルで、Steamで『Half-Life 2』を持っている人には無料で配布された。プレイヤーはシリーズの主人公ゴードン・フリーマンとして海沿いの崖を登り、修道院に据えられたコンバインの兵器を破壊する。遊べる時間は短く、ステージはひとつきりだ。

本編から切り落とされた一幕
このレベルはもともと『Half-Life 2』の一部として作られ、開発中に捨てられたものだった。組み込まれる予定だったのは「Highway 17」の章で、その開発中の呼び名が「Coast」だったことから「Lost Coast」という題が付いている。ゴードンが見知らぬ場所にたどり着き、漁師と出会う場面として構想されていた。
そのため本編には入らなかった物語上の細部がいくつか残っている。ヘッドクラブを撃ち出す大砲もそのひとつで、本編から外された要素がこの短いステージの中だけに生き残った。

修道院は、光を見せるために選ばれた
『Lost Coast』の目的は、Sourceエンジンに実装されたHDRレンダリング(明暗の幅を広く扱う描画技術)を見せることだった。ヴァルヴは2003年末からSourceへの実装を試みており、最初の方式はテクスチャをRGBA色空間に格納してマルチサンプルアンチエイリアスとピクセルシェーダーを使えるようにしたが、アルファマッピングと霧の効果が正しく動かなくなるという代償があった。
舞台の選定もこの目的に沿っている。修道院に東方正教会の建築様式が選ばれたのは、この種の建物が色彩豊かで素材の種類が多く、自然光で照らされて極端な明暗が同居するためだ。古い人間の建築と、その内部に持ち込まれた未来的なコンバインの技術を対比させる狙いもあった。
崖の道は遊びのために置かれた。初代『Half-Life』(1998年)の崖での戦闘を再現する意図があり、上下から来る脅威に注意を向けさせて、横方向だけの戦いから引き離す。修道院の中庭は崖を登り切った後の休息地であり、同時に四方から攻められながら持ちこたえる閉じた戦場としても設計された。
開発者が、自分の設計を語りはじめた
『Lost Coast』には、もうひとつ新しいものが入っていた。ヴァルヴの作品でコメンタリーモードが搭載されたのはこれが初めてで、進行に合わせて開発者が設計の意図を解説する。
評価はおおむね好意的だった。1UP.comはグラフィック、パズル、賢い敵といった作り込みを評価し、「ヴァルヴはほとんどのシューターが出せる以上の雰囲気を、この小さな断片に詰め込んだ」と書いた。コメンタリーについても有益な追加だと認めている。GameSpotは「『Lost Coast』のテクスチャは製品版より明らかに精細で数も多い」と指摘した。批評家の間では、ここで導入された機能を今後のヴァルヴ作品に取り込むべきだという見方で一致していた。
不満は長さと遊びの中身に集まった。1UP.comとUGOはどちらも短すぎると見た。1UP.comのショーン・エリオットは「絵葉書のように美しい潮だまりと崖を駆け抜け、コンバインの拠点になった教会に入って終わり」と評した。UGOのナイジェル・グラマーは、遊びの部分がグラフィックの後回しになっているように見えると書いた。GameSpotのブラッド・シューメイカーは本編と似すぎており「世界を揺るがすようなものではない」とした。
いま遊べるのか
当時の対応機種はMicrosoft Windows。現在はSteamのストアページ(store.steampowered.com/app/340/)で配信されており、対応はWindowsとLinux。ユーザーレビューも投稿されている。価格は当時と事情が変わりうるのでストアページで確認してほしい(公開時は『Half-Life 2』所有者への無料配布だった)。
当時の評価・開発の経緯は、Wikipedia(英語版/CC BY-SA)を参照した。画面写真はSteamストアの公開素材。










